近年、光学赤外線天文学分野で注目されているボリュームフェイズホログラフィック(VPH)回折格子を独自に開発するために、製作システムの構築とそれによる試作実験を行った。VPH回折格子はホログラフィーの技術を用いて製作するが、その際、様々な記録材料と現像処理方法の組み合わせが考えられる。本研究ではそのうちのいくつかについて実際に回折格子を製作し、その回折効率を測定することにより最適な組み合わせを求めた。その結果、銀塩乳剤(PFG-03C)を記録材料として漂白処理と組み合わせることにより、従来の表面彫刻型回折格子に匹敵する60%を超える回折効率が得られることがわかった。今後は、この手法による製作精度を高めながら、VPH回折格子の特性を活かした特殊な回折格子の開発を試みる。 VPH回折格子の試作と並行して、VPH回折格子とプリズムを用いたチューナブル分光器の実験も行った。VPH回折格子は、入射角を調整することにより、高回折効率が得られる波長域を選択できるという特長を持つ。この特性を活かした分光器はチューナブル分光器と呼ばれている。これまで提案されているチューナブル分光器の方式は機械的に光路を折り曲げるもので、これでは既存の装置に組み込むことが出来ない。そこで本研究では、組み合わせプリズムを用いてビームを偏向させることにより、直進光学系において入射角を連続的に調整可能な方式を考案し、実験を行った。その結果、プリズムを光軸の周りに回転させるだけで、観測波長域を理論値通りの効率特性で選択できることが確認できた。さらにその際、観測次数も0次から2次まで選択でき、異なる波長分解能でのデータ取得が行えることを確認した。
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