遠赤外・サブミリ波領域には星間ガスの原子・分子線が豊富に存在することから、その高分解スペクトル観測は星生成領域の研究や未知の星間分子の探索などに強力な手段となる。このような観測にはヘテロダイン検出が有効であるが、既存の気体レーザーや電子管などの固定周波数の局所発振器を用いた受信機では観測周波数帯域がミキサー帯域で制限されてしまう。本研究はこの観測周波数の制限を打破すべく、レーザー差周波発生の原理に基づく周波数可変局所サブミリ波発振器を開発しようとするものである。 近年、低温成長ガリウムヒ素などの超高速光伝導素子(フォトミキサー)に2波長レーザーを照射するとその差周波に相当するコヒーレントなサブミリ波が発生することが、主に米国の研究者や申請者らによって実証されてきた。しかし、現状ではヘテロダイン検出に適用できるほどの出力が得られておらず、その増強が課題となっている。本研究では、申請者の発明である進行波型フォトミキサーを用いたサブミリ波出力の増強を目指している。このデバイスを用いることにより従来の1桁以上の出力増強と周波数帯域の大幅な拡大が見こまれることが申請者により示されている。 また、同デバイスをサブミリ波検出にも応用できることが申請者により発案され、その性能の推定がなされている。その結果、変換効率は現存の超伝導ミキサーには遠く及ばないものの、極低温にまで冷却すれば分光応用に充分な性能を有することが示された。 現在は、上記のようなサブミリ波光源を構築するため、2波長レーザーシステムと周辺測定系を設置中である。これが完成すれば、上記の新しいタイプのデバイス動作原理を実証するとともに、ヘテロダイン検出実験を行なうことができるものと考える。
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