平坦でない非自明な時空中の弦理論、ブラックホールの量子論、AdS/CFT対応と呼ばれる仮説を通しての弦理論・ゲージ理論の非摂動的側面などを理解する上で、反ドゥジッター時空(AdS)中の弦理論が重要であると認識されている。特に、3次元の反ドゥジッター時空(AdS_3)は、様々な理由から、最も精密な解析が可能な場合であると考えられている。このAdS_3中の弦理論の構造を明らかにするためには、モジュラー不変性、演算子積(OPE)など、弦理論を記述している共形場理論(CFT)の基本的性質を知る必要がある。 本研究では、まず加藤(東大・数理)と共に、どのようなモジュラー不変量が可能なのかを調べ、理論のヒルベルト空間を決定する上での有用な知見を得た。 また、石橋、奥山(高エネルギー加速器研究機構)と共に、OPEを考察するために重要である一般のプライマリー場の2点、3点関数を、経路積分を直接実行することにより厳密に求めた。その結果は、対称性などに基づいて間接的に提案されていた結果と等価であることがわかり、3点までの相関関数の厳密な結果を確立したといえる。 このような経路積分を実行するには、複雑な手続きが必要であったが、さらに細道(京大・基研)、奥山と共に、ゼロモードを正しく考慮すれば、こうした計算が本質的に自由場のものに帰着し、簡便に実行できることを示した。その結果を利用し、ある場合の4点関数が求められることも示した。 このように、AdS_3中の弦理論の基本的性質に関して有用な結果を得たと考えている。これらの結果に基づいたさらなる解析により、AdS_3中の弦理論の構造が確立されると期待される。
|