重陽子-ヘリウム4後方散乱のテンソル偏極分解能という、新しい手法を用いたヘリウム4原子核の高運動量成分研究を提案した。本年度は、昨年製作し重陽子-陽子弾性散乱の偏極移行量測定に用いた冷却標的システムで、ヘリウム4ガスを11Kまで冷却し、これに140MeVの偏極重陽子ビームを照射する予備実験を行った。0度に散乱されたヘリウム4原子核を、高分解能磁気分析装置で運動量分析した後検出した。 得られたテンソル偏極分解能はT_<20>=-0.39±0.01と負の値であった。グリーン関数モンテ・カルロ法によって得られたヘリウム4の波動関数を用いた、ナイーブな一重陽子交換模型が予言するテンソル偏極分解能は、T_<20>>0であり、驚くべきことに実験結果はこれと符合が異なる。これは、中間エネルギー領域の重陽子-ヘリウム4後方散乱においては、当初予想したように一重陽子交換過程が支配的ではなく、例えばパイオン再散乱過程が重要であるか、又はグリーン関数モンテ・カルロ法で得られたヘリウム4波動関数の、特にS状態とD状態の相対符合に問題があるかのどちらであることを示唆している。 今後、140MeVおよび270MeVの二つのエネルギーにおいて、偏極観測量を有限角度で測定し、上で示した二つの可能性のどちらが正しいかを明らかにしていくことを目指す。又、パイオン再散乱過程の理論計算を行うことによって、ヘリウム4波動関数についての定量的な議論の可能性を模索する。
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