偏極陽子固体標的は原子核・素粒子の構造とそれらに働く力を理解する上で重要な実験装置である。従来、偏極陽子固体標的は高磁場超低温の条件下でのみ可能とされてきた。高温低磁場中で利用可能な標的を開発するのが本研究の目的であり、革新的な開発である。 本年度は、装置の設計・組み上げに始まる開発作業と、組みあがった装置を用いた陽子偏極のテスト実験を行った。 1偏極装置の開発 以下の装置の開発、製作を行った。 (1)標的となる芳香族結晶の製作装置の開発および単結晶の作製 (2)共振器、電磁石、マイクロ波、レーザー照射装置の開発 (3)電子スピン共鳴測定、偏極測定装置(NMR)の開発 結晶の作製では、パラタフェニールにペンタセンをドープした結晶、およびナフタレンにペンタセンをドープした結晶について純度の高い単結晶を得ることに成功した。アントラセンにフェナジンをドープした結晶についても開発を進めている。 装置の組み上げはまだ初期的段階であるが、電子スピン共鳴測定装置を除いた他の装置がすでに動作をしている。 2偏極度測定実験 パラタフェニールにペンタセンを不純物としてドープした結晶を用い、偏極装置を用いた偏極実験を試みた。その結果、常温(300K)において0.2%の偏極度を得ることに成功した。従来の偏極固体陽子標的が1K以下の温度で使用されることに比べると、300倍の温度の下での偏極に成功したことになり、大きな成果が得られた。 偏極度をさらに上げる開発を行い、実際に原子核ビームを照射する偏極標的として実用化することが今後の課題である。
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