宇宙項問題として知られる宇宙定数の不自然な微小さを、有効理論の枠組みから理解する試みを実行した。宇宙定数はそれ自体、宇宙構造を規定する重要因子であるが、それにも増して、有効理論に基づく基本法則の理解全体に問題を投げかける、単なる一つのパラメータ微細調整をこえた課題となっている。解決の方向として、Adjustment MechanismsとChanging Gravityの二つの既存の試みに着目して考える。Adjustment Mechanismsは、スカラー場の相互作用によって、曲率の小さな背景時空を選ぼうとする試みであるが、望ましい背景は得られずに重力が分離する状況に陥ってしまう。Changing Gravityは、宇宙定数が力学変数になるような重力理論を採用する試みであるが、小さな値を選ぶ理由は内在していない。そこで、この二つのアプローチをあわせて考えることにより、どちらにも分類しきれない新たな可能性を導入した。これだけではパラメータ調整を完全に無くせるわけではないが、元々の宇宙定数の微細調整とは異なるパラメータ調整になっているため、高次元理論における自然な実現が可能になる。その結果はインフレーションとのアナロジーによって理解できる。時間方向に進展する通常の空間のインフレーションが平らな空間を実現するように、高次元方向に進展する時空間の「インフレーション」が平らな背景時空を選択するのである。
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