本年度は主に、事象の地平線のトポロジーを決める端点の構造を分類する事を主たる目的において研究を行った。 そのために実関数の特異点論についての数学的理論を導入した。ここでいう特異点は力学系における変分原理の臨界点であり、物理現象を記述する。そして事象の地平線も幾何光学の枠組みでの議論が本質的であることから、その端点を一種の準局所的な特異点として取り扱う事ができる。準局所的といったのは重要で、良くこの枠組みで取り扱われる幾何光学のコースティックは純粋に局所的に定義される。それに対して地平線の端点は一部の変数(状態空間)においては大域的に与えられるので、実関数特異点論を拡張する必要がある。このような特異点をMaxwell集合とよんで多重関数芽による枠組みでそのジェネリシティーを議論するのである。それによれば、このような多重関数芽を許される変形パラメータ数(=地平線の次元)の制限のもとで普遍開折として分類が可能である。 分類された関数芽は位相的構造の小片をあたえ任意のジェネリックな地平線の端点はこれらの組み合わせで与えられる。地平線の位相構造はこの端点を原点とする未来向き光円錐の抱絡面をもって与えられる。つまり事象の地平線のトポロジーが決定できる。これによれば、トーラスの地平線が一般的にできるなどのことが結論される。 このようにMaxwell集合が重力理論に応用できる事はこれまで知られていなかった事であるし、数学におけるこの分野の発展に対してもいささかの寄与のあることであろう。
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