研究概要 |
これまで物理学においてカタストロフィー理論は主に、幾何光学(重力レンズ)におけるコースティックや流体力学における衝撃波を理解するために用いられてきた。この事は、力学的なフローの問題は適当な作用関数の局所的な特異点(臨界点、停留点)もしくはそれに準ずる構造で取り扱われる事に起因している。 実際、事象の地平線の端点の構造は本質的に幾何光学の問題でありこの線で定式化が可能である。ただし事象の地平線の特異点(端点)は上のコースティックのような純粋に局所的な特異点ではない。つまり、状態空間を大域的に取り扱う、拡張された特異点の理論が必要になるのである。この拡張は実特異点論における多重関数芽という概念を導入することによって行われる。そしてこのようにして定義された特異点ををMaxwell setと呼ぶ。事象の地平線の端点はこのMaxwell特異点に対応していてその構造の分類は多重関数芽の普遍開折の分類によって与えられる。結果はほんの5種の構造ですべてのホライズンの構造が記述されるはずである。 つまり起こりうるホライズンのトポロジーは完全につくされる。さらに言えばMaxwell setの構造と事象の地平線のトポロジーが関係する事は本来の応用数学の立場からも興味深い。これまであまり進展のなかったMaxwell setについての研究を活性化することも期待される。 また、上のような理由で端点の集合は事象の地平線の大域的な構造について大部分の情報を保持していると考えられる。この事は端点の集合の持ちうる情報量(エントロピー)でもってブラックホールのエントロピーが評価できる事を示唆している。 実際、端点の集合の状態の数は鎖状高分子からの類推から評価できて、良く知られるブラックホールのエントロピーを与えるようである。ベッケンシュタインのブラックホールエントロピーにおいて、そのもっとも特筆すべきは、表面積に比例するということであろう。じっさいエントロピーは示量変数であるから、ブラックホールの内部自由度をその表面に制限しなければこのような事情は説明できないだろうし、ADS/CFT, Quantum Geometryその他の研究はそのセンスで行われてきた。 本研究は、この点においてまったく独立にブラックホールエントロピーが面積に比例することを説明する点が重要である。
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