1.緒言 ペロブスカイト型プロトン導電体はプロトン拡散性とプロトン溶解性によって特徴づけられている物質であり、この2つの特性はともに母体結晶とドーパントイオン間の局所的相互作用から発生している。もしくは、ドーパントイオンの局所性質が母体結晶の物性を大きく変化させたと言っても良い。イオン半径や価数の異なるドーパントイオンを母結晶中に取り込んだとき発生する局所歪みは、プロトン拡散過程を理解する上で重要であることはこれまで指摘されてきた。加えて、局所歪みを緩和させるためにプロトン欠陥や酸素空孔を生成するのであれば、プロトン溶解性と密接な関係があるとも考えられる。このことから、ドーパントイオン周りの局所構造からプロトン導電性を理解できる可能性がある。 2.Yb周りの局所構造(J.Phys. : Condens Matterに報告) EXAFS法を用いてプロトン導電体SrZr_<1-x>Yb_xO_3のYb周りの動径構造関数を調べた。第一近接の酸素イオンの分布に強いサイドピークが現れていることから、2種類の距離を持つYb-Oイオン対が存在することがわかった。母結晶のZr周りの局所構造とラマン散乱の結果から、Ybが酸素八面体のオフセンター位置にシフトして分布していると結論づけた。 3.誘電緩和(第27回固体イオニクス討論会で発表) ドープされたYbは、酸素八面体のオフセンターに位置することにより局所的な分極を生じさせる。これがプロトンと強く相互作用することによって、中性子準弾性散乱実験よって指摘されているプロトン拡散のTrapping Stateの要因になっていると考えられる。Ybイオンが作る局所的な歪み場とプロトンとの相互作用を詳細に調べるために、誘電緩和実験を行った。Ybを含まないSrZrO_3の場合では、緩和は見られなかったのに対し、Yb 2mol%以上では2つの緩和が観測された。不純物Ybの濃度依存性と、温度依存性から高周波側の緩和は、局在したプロトンの運動、低周波側の緩和はプロトンの集団運動によるものである可能性が高い。
|