研究概要 |
金属カーボンナノチューブにおけるフォノン散乱による電気伝導率の計算を実行した.ナノチューブのトポロジーを正しく反映したフォノンモードを求めるために,結合ボンドの伸縮,2つのボンドのなす角度の変化,4つの原子配置で定義される曲率の変化に対する復元力を考慮した微視的モデルを導入し,グラファイト平面のフォノンモードに周期的境界条件を課しただけは記述できなかったゼロモードやブリージングモードと呼ばれるナノチューブを特徴付けるフォノンモードの記述を可能にした.解析計算を行うために長波長極限における摂動展開を行い音響モードに対する連続体モデルを導出したところ,得られたモデルはグラファイト平面の音響フォノンを記述する等方的連続弾性体モデルにおいて歪テンソルをデカルト座標から円筒座標系に置き換えたものと一致した.このモデルによって計算される電気伝導率は高温極限で温度に比例し,電子格子相互作用はチューブの螺旋度に依存しているにもかかわらず,構造によらない普遍的な振る舞いを示すことが明らかになった.散乱に寄与するモードは螺旋度により異なるが高温極限で成立する一種の総和則により電気伝導率は一定になることが示される.しかし,低温ではフォノンの固有エネルギーが離散化した量子効果が現れ,ギャップを持つモードによる電子散乱の寄与が減少することにより,具体的にはブリージングモードのエネルギー程度の温度以下で電気伝度率は螺旋度によって異なる振る舞いを示すことがわかった.これは電子と格子振動のどちらも単独では低エネルギー励起がナノチューブの構造に依存しないモデルで記述されるにもかかわらず,それらの相互作用により生じる電気伝導は螺旋度に依存するという点で特筆すべき現象である.今後の課題は様々なランダムネスを考慮した電気伝導率を求めることである.
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