本研究課題では、強い電子相関を持つ物質の赤外光学応答を、ダイヤモンドアンビル(DAC)を用いて発生した数GPaの高圧力下で測定することを目的としている。DACにおいては、有効径が0.2mm程度しか取れず、その中に置かれた試料の赤外反射スペクトルを精密に測定しなければならない。このため、従来の赤外光源よりも格段に輝度の高い赤外放射光を用いる。実験は西播磨大型放射光実験施設SPring-8の赤外ビームラインBL43IRに設置された赤外顕微分光装置を用いて行う。平成12年度の予定は、 (i)DACと赤外顕微鏡を用いた反射分光の基礎の確立、および (ii)高圧実験の予備実験である、大気圧での精密な反射率測定の遂行 であった。このうち(i)については、本研究提案者を含むBL43IR建設グループのメンバー達により装置の整備が進められており、DACを用いて低温で圧力を加える実験が始まろうとしている。まもなく圧力誘起相転移を示す強相関電子系試料を実際にDACに仕込み、高圧での反射分光が開始できる見込みである。(ii)については、強相関電子系の中でも特に「近藤半導体」とよばれるYbB_<12>とその希釈系Yb_<1-x>Lu_xB_<12>について、光反射スペクトルを様々な温度で測定し、エネルギーギャップや赤外吸収の振る舞いを詳しく解析した。その結果、この物質のエネルギーギャップに置いては、各磁性イオンにおけるsingle-site近藤効果と、磁性イオンの格子の効果が、どちらも重要な役割を果たしていることを明らかにした。平成13年度には、これらの物質も高圧での測定を行い、圧力印加によるエネルギーギャップの変化などを調べる予定である。
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