研究概要 |
3d遷移金属化合物のひとつであるマンガンカルコゲナイドMnY(Y=S,Se,Te)は、常温常圧下で、NaCl型(MnS、MnSe)あるいはNiAs型(MnTe)をとる。一方、閃亜鉛鉱型をもつMnY(ZB-MnY)は薄膜の形態でのみ存在し、ここ10年の間に作られるようになってきた。ZB-MnYは、II-VI希薄磁性半導体の基本物質であり、その電子状態を調べることは希薄磁性半導体の物性を理解するうえで重要になる。 閃亜鉛鉱型MnTe(ZB-MnTe)薄膜は、バルクであるNiAs型MnTe(H-MnTe)をGaAs(100)基板上に〜300度で蒸着することにより作製した。x線回折および低エネルギー電子線回折(LEED)により、ZB-MnTe(111)薄膜単結晶が得られていることを確認したのち、光電子・逆光電子分光実験を行い、価電子帯および伝導帯における電子状態を調べた。得られたZB-MnTeのスペクトルを以前測定したH-MnTeのものと比較したところ、前者は後者に比べてMn3d軌道とTe5p軌道の混成が小さくなり、価電子帯の幅が小さくなっていること、また実験から見積もったMn3d交換分裂エネルギーも、前者ではMn3d軌道間の混成が少ないため、大きくなっていることを見いだした。この実験事実はPhysical Review Bに掲載された。 次にZB-MnSeの育成を始めるため、ZB-MnTe育成に用いたホットウォール炉のメンテナンスおよび真空槽の洗浄を行った。現在バルクのNaCl型MnSeをGaAs(100)基板上に蒸着することにより、ZB-MnSeの育成を試みている。x線回折によれば、ZB-MnSeによる回折ピークが現れているが、その他にもいくつか不明のピークが出現している。ZB-MnSe薄膜単結晶を育成するため、蒸着速度、成長基盤温度などの最適化を行い、光電子・逆光電子分光実験を行う予定である。
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