本研究は、アルカリハライド結晶中に埋め込まれた酸化亜鉛微粒子における励起子発光帯の光強励起効果について行ったものである。酸化亜鉛(ZnO)の励起子発光帯は紫外光領域の発光素子への応用が期待されている。励起子発光帯の出現には良質の試料が求められ、これまで分子線エピタキシー(MBE)法などの大がかりな装置を用いて試料が作製されてきた。しかし本研究で用いた試料作製法は、2枚の石英板を重ねてできた隙間にZnO粉末を混ぜたアルカリハライド融液を導入し、冷却固化させるという、非常に簡単なものである。にもかかわらずこの試料は、MBE法で作製された試料と同程度の励起子発光特性を示す。本年度は、この試料における励起子発光帯の光強励起効果を観測し、高密度状態の励起子の振る舞いについて調べた。 試料は種々のアルカリハライドに酸化亜鉛微粒子を埋め込んだものを上記の方法で作製した。それらをクライオスタットで極低温に置き、窒素レーザーを用いて強励起下での発光スペクトルを測定した。励起強度は減光フィルターを用いて変化させた。励起強度の増大とともに低エネルギー側に裾を引く新たな発光帯が出現するのを観測した。その強度は励起強度の1.6乗に比例した。そのスペクトル形状と発光強度の励起強度依存性から、この新たな発光帯は励起子分子が励起子を残して消滅する際に生じるものと考えられる。この発光帯の出現エネルギー位置から、この試料における励起子分子の束縛エネルギーは15meVと見積もられた。さらにこの発光帯の詳細な解析から、縦波励起子と横波励起子をそれぞれ残す発光帯に分裂していることが明らかとなり、縦波-横波励起子分裂幅は2.5meVと見積もられた。
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