研究概要 |
パイロクロア型酸化物R_2Mo_2O_7(R=Y,希土類)は、R原子のイオン半径に依存して、系の基底状態がスピングラス様絶縁体から強磁性的な金属へと転移する興味深い物質である。本研究ではR_2Mo_2O_7の磁気輸送現象や金属-絶縁体転移の機構を様々な物性測定を通して探索する。この系の輸送特性の精密な評価には単結晶試料が不可欠であるため、今年度はまずR_2Mo_2O_7の単結晶試料をフローティングゾーン法により育成することを試み、R=Y,Nd-Hoの系について良質な試料を得ることに成功した。またこれらの単結晶試料に対して直流磁化、電気抵抗、比熱の測定を行った。まずR=Y,Tb-Hoの系については、実験結果はこれらの系がスピングラス様な半導体であることを示すものであった。特に電気抵抗はρ=ρ_0exp(E_g/kT)の式に従い、これらが単純な熱活性型の半導体であることがわかった。また活性化エネルギーE_gは系の格子定数とともに単調減少することもわかった。一方、R=Nd-Gdの系については、電気抵抗の金属的な挙動が観測されたが、室温付近で飽和する傾向が特に相境界近傍のGd_2Mo_2O_7で顕著に見られた。この実験事実はGd_2Mo_2O_7がモット転移近傍の系であることを示唆している。またGd_2Mo_2O_7ではR=Nd,Smの系とは対照的に比熱の強磁性的な転移に対応する異常や直流磁化の鋭い立ち上がりが観測されなかった。さらに比熱測定からは残留エントロピーがあることが示唆された。以上のことは、相境界近傍に位置するGd_2Mo_2O_7では、Moサイトの強磁性秩序が乱れた不完全なものであることを示唆している。今後はR_2Mo_2O_7の金属-絶縁体転移の特性をより精密に調べるために(Sm_<1-x>Tb_x)_2Mo_2O_7等の単結晶試料を合成し、相境界付近の物性を詳しく評価することを計画している。
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