本研究では典型的な3次元スピンフラストレーション系であるZnCr_2O_4について、そのフラストレーションが解消する機構を明らかにするために格子変形と磁気秩序の関連性に注目し、誘電率、磁化率、X線回折、中性子回折の実験を行い、次の結果を得た。 1.ZnCr_2O_4、は、反強磁性ネール温度T_N=12.5±0.5Kで格子の変化を伴う一次相転移をする反強磁性体であり、その磁気構造はq_1=(1/2 1/2 0)、q_2=(0 0 1/2)の2つの逆格子ベクトルで特徴づけられている。磁気反射の強度は冷却時に加えた磁場の方向に依存して、立法対称の下で等価な磁気ブラッグ反射の強度がそれぞれ変化する。特に磁場を[111]方向にかけたときその効果が大きい。逆に[001]方向の磁場冷却効果は存在しない。反強磁性相の結晶対称性は少なくとも斜方晶まで低下している。これによって、最隣接Cr-Cr相互作用は3種類に分かれ、その結果スピンフラストレーションが解消する。 2.誘電率には、反強磁性ネール温度で誘電率が不連続な飛びを示す。また、それより高温の短距離磁気秩序が現れる温度範囲に、低周波誘電分散が存在する。反強磁性ネール温度での誘電率の異常は格子の変化が誘電性に影響を与えたものである。誘電分散は、モデルとして「局所的に生じる反強磁性クラスターが格子歪みも伴うことによって生じた誘電的に不均一な状態」を導入することによって定性的に説明できる。 以上より、ZnCr_2O_4は、(1)通常の常磁性相から、(2)局所的な格子歪みを伴う反強磁性的なクラスターの共存する状態を経て、(3)ネール温度で、構造相転移を伴う一次相転移によって長距離反強磁性秩序を形成すると考えることができる。
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