強磁性化合物(Sm_<1-x>Gd_x)Al_2は、秩序領域におけるある特定の温度T_<comp>でスピン磁気モーメントによる磁化と軌道磁気モーメントによる磁化とが相殺して全体の磁化が消失することが磁化測定等から推測されている物質である。このような巨視的な磁化の発生を伴わないスピンの偏極状態は荷電粒子の運動に対してローレンツ力等の影響を及ぼすことなくそのスピンを操作・検出するための素子材料のもつ性質として有望なものと考えられる。今年度は、このT_<comp>におけるスピンのフェロ配列を微視的に検証するために行った偏光反転コンプトン散乱の成果のとりまとめを行い、これを公表した。昨夏フランスのグルノーブルで開催された1^<st> Joint European Magnetic Symposiaではスピンエレクトロニクスのシンポジウムにおいて講演を行い、活発な議論が交わされた。論文は昨年9月にPhysical Review Letter誌に発表され、またその内容は、アメリカ物理学会がPhys. Rev Lett.から話題を選定してインターネット上で一般向けに分かり易い形で公開しているPhysical Review Focusの記事としても取り上げられた。国内においては共同通信より幾つかの新聞社に記事が配信され本研究の成果が紹介された。なお今回の実験結果の解析から、(Sm_<1-x>Gd_x)Al_2中の希土類元素の4f電子に起因する磁気コンプトンプロファイルの形状が動径分布のみを考慮した相対論的ハートリー・フォック計算の結果からずれていることが明らかとなった。このずれは4f電子のスピン密度分布の異方性を反映しているものと考えられ、今後の興床ある調査課題であると思われる。
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