研究概要 |
FeF_2は非常に強い1軸異方性をもつ3次元反強磁性体(ネール温度T_N=78.4K)である。人工的な2次元イジング磁性体の実現を目指して、FeF_2n分子層とZnF_230分子層を交互に50回蒸着した多層膜([FeF_2(nML)/ZnF_2(30ML)]50,n=1〜10)を作製した。SQUID磁束計を用いてスピン容易軸方向に磁場を印加し、多層膜のゼロ磁場冷却後の磁化(M_<ZFC>)と磁場中冷却後の磁化(M_<FC>)の温度変化を測定し、その膜厚依存性を調べた。n=2〜10の試料においていずれもバルクのT_Nよりも低温にM_<ZFC>の温度依存性にピークが見られ、ピーク温度以下でM_<FC>がM_<ZFC>から逸脱して温度の低下とともに増加することがわかった。n=1試料のM_<ZFC>にはピークは見られなかったが変曲点が存在し、その温度よりも低温においてM_<ZFC>とM_<FC>の間に不可逆性が現れた(M_<FC>>M_<ZFC>)。この不可逆性は、磁場中冷却後において系がドメイン構造をとっていることを示しており、原因として界面の乱れによるランダム磁場効果が考えれられる。n=2〜10の試料においてはM_<ZFC>のピーク温度を、n=1試料ではM_<ZFC>とM_<FC>の間に不可逆性が現れる温度を、それぞれの試料における転移温度(T_c)とした。FeF_2層数の減少にともない、T_cは徐々に低下し、n=1試料の転移温度はT_c〜13Kである。一方、Onsagerによる2次元正方格子における理論を参考にして求めた転移温度は〜5Kである。この不一致の原因として、多層膜において膜厚に若干の分布が生じていることが考えられる。規格化された転移温度(1-T_c(n)/T_c(∞))のFeF_2層間の相互作用の数(L=n-1)依存性は、多層膜における有限サイズ効果について3次元系に対して予測された結果と、L>4ではよく一致するが、L〜4以下では一致しない。これは、この多層膜がL〜4すなわちn〜5近傍において3次元磁性体から2次元磁性体へと移行することを示唆するものである。
|