FeF_2は非常に強い1軸異方性をもつ3次元反強磁性体(ネール温度T_N=78.4K)である。我々は人工的な2次元イジング磁性体の実現を目指して、FeF_2x分子層とZnF_230分子層を交互にn回蒸着した多層膜([FeF_2(xML)/ZnF_2(30 ML)]n)を作製し、X線を用いて構造解析を行い、この多層膜は、基盤物質としてサファイアを用いた場合はスピン容易軸に結晶が成長し、酸化マグネシウムを用いた場合は、スピン容易軸に垂直な方向に結晶が成長することを明らかにした。SQUID磁束計を用いてこれらの試料の磁化の温度変化の膜厚依存性を調べたところ、ゼロ磁場冷却後と磁場中冷却後の磁化の間に転移温度以下において不可逆性が見られた。これは磁性膜と非磁性膜との境界に生じた構造的な乱れによるランダム磁場効果に起因すると考えられる。いずれの基盤物質を用いた系でも、10MLよりも磁性層が薄い領域で、ネール温度が徐々に低下することがわかった。ネール温度の磁性膜厚依存性から、x~4 MLにおいて、3次元系から2次元系へのクロスオーバーが始まることが示された。また、スピン容易軸方向に成長した試料においては、2~4MLの付近でネール温度の磁性膜厚依存性に異常が見られ、バルクの希釈系と比べて多層膜では交換相互作用の競合の寄与が大きいことが示唆された。
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