研究概要 |
強磁性体ビスマス置換ガーネット薄膜に交番磁場を印可し,その磁区構造を偏光顕微鏡により観測した.1〜10kHzの比較的周波数の高い磁場を100〜3000eの振幅で加えると,低周波の場合に観測される迷路状とは異なる構造が観測される.この周波数領域では,観測に用いているCCDカメラのシャッタースピードより高速で交番磁場を駆動しているため,観測に掛かるのは磁化の時間平均であると考えられる.通常の交流帯磁率の実験からは,ガーネット磁性体は周波数応答に優れ,今回の実験周波数領域では完全に外場に追随すると考えられている.この場合,飽和磁場以上の交番磁場強度であれば,灰色の均一なパターンが観測されるはずである.しかし今回,飽和磁化が2000e程度の試料を用いた実験結果は,上向きと下向き磁化分布の対称性が崩れ,格子状磁区構造やターゲットパターン,スパイラルパターンが観測された.これは,試料のごく一部ではあるが磁化が外場に追随しない,つまりエネルギーロスが発生している領域の存在を示唆している.しかもこれらの散逸系によく見られる構造,(スパイラルパターン,ターゲットパターン)が出現している点が注目される.これらのパターンの中心点は,試料のピットなど欠陥である場合が多いが,パターン全体は時間とともに緩やかに変動している.これは,固体中に発生した乱流パターンの一種であると考えられる.ただし,現段階では試料に加えられている交番磁場の均一性にやや問題があるため,装置の改良を進め対称性の破れに関して検証を進める必要があると考える.
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