液晶は異方性をもつ流体であるため、分子配向を境界条件で制御することによって系の対称性を変えるることができる。本研究では、連続回転対称性が自発的に破れたホメオトロピック配向系の時空カオスの研究を、従来研究されてきたプレーナー系(連続回転対称性が強制的に破れた系)と比較しながら行った。ホメオトロピック系では、連続回転対称性の自発的破れに伴うゴールドストーン・モードが対流モードと相互作用を起こし、1回の超臨界分岐で静止安定状態から直接発生する「ソフトモード乱流(SMT)」を生じさせる。今回、画像解析の手法を用いて、SMTが局所的な周期パターンの波数ベクトルの向きに関する時空カオスであることを明らかにした。また、スナップショットで見ると、波数ベクトルの向きがそろった領域が多結晶のように集まったパッチ構造をしていることも明らかとなった。これまでに知られていた時空カオスは位相乱流や欠陥乱流であり、それとは異なる新しいタイプの時空カオスが発見されたことを意味する。 従来のプレーナー系の研究では、欠陥乱流を説明するためにギンツブルグ-ランダウ方程式に平均流効果を導入する仮説が提案されていた。しかしプレーナー系の欠陥乱流も、境界条件で抑制されたディレクタ回転自由度が重要な役割を果たしていることが予測される。本研究では、プレーナー系に磁場を印加することによって欠陥乱流の発生を抑制できることを示し、その予測の証明を行った。 以上のように、液晶電気対流系はディレクタ回転モードと対流モードの結合系であり、場の対称性と結合の仕方により多様なパターン・現象が現れることが本研究で明らかとなった。しかし、場の対称性の違いにより現れる現象が大きく異なる原因は未解明である。最終的には、対称性に依存しない普遍ダイナミックスと対称性に依存する個別ダイナミックスとを明確に分類することが必要である。
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