研究概要 |
複素ベクトルポテンシャルの2つの応用法を研究した.すなわち、第一に、エルミートな不純物アンダーソン模型の波動関数の局在長を、非エルミートな「Hatano-Nelson模型」のエネルギー固有値を使って計算する方法である。第二に、量子カオスや原子核の散乱における共鳴状態を、「Hatano-Nelson模型」のように複素ベクトルポテンシャルを使って調べる方法である。 これらの計算は解析計算のみでは難しいので、大規模な数値計算を行わなければならない.そこでまず、非エルミートな格子模型の対角化の効率的アルゴリズムの開発に着手した.上記の目的を達するためには巨大な非エルミート行列の対角化が必要になるが、実はそのようなアルゴリズムはまだ開発途上というのが現状だからである。 つい最近になって非エルミート系を調べる新しい方法が応用数学の分野で提案された。あるエルミート行列の「擬スペクトル」(グリーン関数の複素面上での等高線に相当する量)を計算することによって、非エルミート行列のスペクトルを知るという方法である。そこで「擬スペクトル」を共役傾斜法とランチョス法を組み合わせて計算するアルゴリズムを編み出した.これを物理の格子模型に最適化することによって大規模な対角化が可能になる。 この計算手法を,梯子格子上のタイト・バインディング模型にランダム磁場がかかった問題に適用し、ランダムポテンシャルの場合とは全く異なった振る舞いを見い出した。また,複素ベクトルポテンシャルの方法を現実的なポテンシャルに適用して共鳴散乱状態を計算した.
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