強相関電子系で実現する金属-絶縁体転移(金属-非金属転移)の例として、金属的な基底状態を持つ重い電子系における磁性イオン希釈効果を念頭においた研究を行った。金属的な基底状態を持つ重い電子系では、重い電子系の研究の初期の段階から、磁性イオン希釈実験(磁性イオンを非磁性イオンで置換する実験)が行なわれ、一不純物近藤系と関連した多体効果などが調べられていた。 本研究では、特に、磁性イオン希釈系に対する電気抵抗の温度変化を調べる実験に注目し、その実験結果を理論的に再現することを目的とした。周期的Andersonモデルをベースにした磁性イオン希釈系の理論モデルに対して、電気抵抗の他、状態密度や電子比熱などを計算し、それらの非磁性イオン濃度依存性を調べた。具体的には、動的平均場理論の枠組における逐次摂動理論とコヒーレント・ポテンシャル近似を合わせた自己無撞着なスキームを開発し、それを用いてGreen関数を計算した。その結果、非磁性イオンのない場合には、降温とともに温度の2乗に比例して減少する、典型的なFermi液体としての金属状態を示す電気抵抗の温度依存性を得た。非磁性イオン置換が進むにつれて残留抵抗が増大し、磁性イオン濃度の薄い極限では、通常の一不純物近藤効果に見られる対数的な電気抵抗の増大が確認された。このような変化は、電気抵抗の実験結果と定性的に一致する。本研究により、強相関効果が、重い電子系と一不純物近藤系のそれぞれに影響を与える様子が明らかにされた。また、磁性イオン濃度が高い場合に実現する、金属的な重い電子系に対応する電子状態から、磁性イオン濃度が低い場合に実現する、一不純物近藤系に対応する電子状態までを、一つの枠組で統一的に解析することに成功した。
|