研究概要 |
今年度はn-アルカンのドロップレット結晶(C25)とアルカンチオール結晶(C18SH,C19SH,C22SH,C23SH,C24SH)の相転移過程における秩序形成をX線回折と熱分析(DSC)によって調べた。 n-アルカンバルク結晶では融液からの温度下降時に見られる回転相が、ドロップレット結晶の場合は出現しなかった。その理由としては、結晶化温度の過冷却度がバルクと比較し大きいためであり、結晶化温度ではすでに低温秩序相が安定であるためと思われる。このような大きい過冷却は、結晶化、の一次核生成が均一核生成のためであることが、結晶化速度の温度依存性から明らかになった。通常のバルクアルカンの場合、結晶化の一次核生成は不均一核生成である。 アルカンチオールのバルク結晶の相転移挙動は今までに研究例がほとんどない。よって、まず、全体的な相転移挙動を調べることと低温最安定相での構造を決定することを目的とした。最安定相の構造は脂肪酸結晶などに見られるE-formの構造に類似しており、結晶内部でアルカンチオールはSH基同士が向き合った2量体を形成している。さらに構造には炭素数の偶数系列(E1)と奇数系列(E2)で違いがあることも明らかになった。相転移挙動にも偶奇性が見られた。奇数系列の場合、低温相は昇温すると直接融解し、液相から温度を下降すると直接低温相に結晶化する。一方、偶数系列の場合、溶液成長によって結晶化させた低温安定相(E1)は昇温すると直接融解するが、融液成長試料(E1')の場合は何らかの固相転移を示した後に融解する。さらに、液相から温度を下降させると一旦、ある固相に結晶化した後に準安定な低温相(E1')に転移する。このE1'は、時間が経過すると徐々に最安定なE1に変化することがわかった。X線回折実験の結果より、E1'では、分子は2量体を形成しているものの、SH基が同一ラメラ平面に揃ってなく、メチル基側と入れ替わったランダムな配置になっているおとも予測された。E1'相の融解過程と、液相から結晶化の際に一時的に結晶化する相は、n-アルカン等の脂質系分子に特徴的に見られる回転相である。
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