本年度は、昨年度提案した多粒子量子相関(entanglement)を用いた「遠隔量子情報集約(remote information concentration)」の発展として、量子情報の遠隔分配と遠隔集約に関する非対称性の分析を行った。そして、多粒子量子相関を用いた遠隔量子情報分配では決まった構造をもつ量子相関を持つ状態が必要となるが、遠隔量子情報集約ではいくつかの構造の異なった量子相関を持つ状態を用いることができることを発見した。一方、量子ゲート回路を用いた(非遠隔)量子情報集約では、量子情報分配のユニタリー変換の逆変換であり、分配と集約との間に対称的な関係が成り立つ。遠隔量子操作の際に現れるこの非対称性は、一般的に遠隔量子情報分配プロセスでは系の量子相関が増加するのに対して、遠隔量子情報集約では系の量子相関は減少することに起因する。量子情報の符号化(分配)と復号化(集約)を量子相関の観点から解析した。更に、量子情報符号化と複合化の量子相関に関する非対称性を利用した新たな量子情報処理システムに関する研究を行った。 また、上記の量子情報理論の研究と平行して、固体素子を用いた量子情報処理の可能性についての検討を行った。そして、カーボンナノチュープ中の電子スピン自由度を用いた量子情報メモリーを提案し、散逸によるデコヒーレンスの影響を解明する研究を進めている。一方光学系を用いた量子情報処理に関しては、現実的な状況下で量子通信を最適化するような量子情報の符号化・復号化と量子相関との関係についてについて考察した。
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