研究概要 |
本年度実施した研究は、大きく分けて3つある。まず第一は、硫酸塩岩の衝突蒸発実験とレーザー蒸発実験の比較である。K/T大量絶滅事件において大量に衝突脱ガスを起こしたと考えられている硫酸塩岩(とくに硬石膏CaSO_4)をターゲットにし、レーザー照射と衝突蒸発実験を行った。分光観測結果の比較により、この2つの実験で発生する高温蒸気雲の中の原子種・分子種にはほとんど差がなく、温度圧力条件さえうまく制御できれば、レーザーにより衝突蒸気雲の再現実験が可能であることが分かった。ただし、現状では圧力の測定方法が確立していないため、正確な再現実験はまだ困難である。 第2は、石英(SiO_2)のレーザー照射実験とその観測のために必要な理論スペクトルの生成コードの開発である。これは、地球型惑星の主成分であるケイ酸塩岩の蒸発現象を理解するための基礎となるものである。具体的には、SiOの発光スペクトルを任意の温度・柱状密度・波長分解能に対して計算できるコードを開発し、天然の石英のレーザー照射により生成した高温蒸気雲の観測スペクトルと比較した。実験結果は理論曲線が、実際のスペクトルに非常によく近似し、温度推定に有用であることが確認できた。 第3は、衝突蒸気雲の熱力学記載に不可欠な圧力測定のための測定技術の開発である。この実験では、石膏(CaSO_4・2H_2O)のような結晶構造に水を含む鉱物にレーザー照射をすることにより水素を大量に含む高温ガスプリュームを生成し、高速分光観測を行った。水素の出す輝線は一般的に圧力広がりを顕著に示すので、圧力計として使える可能性がある。今回の実験では、7000-20000Kという高温領域においてH_α,H_βなどの水素の強い輝線が現れ、その輝線の線幅はH5nmと非常に大きくなることが観測された。また解析の結果、石膏の高温蒸発体の状態方程式を決定することに成功した。
|