研究概要 |
本研究の目的は地球内部の3次元地震波速度構造及び3次元減衰構造を詳細にかつ同時に推定することである.本目的を達成するために必要とされる,効率的かつ高精度の理論波形計算手法の開発は,本研究計画以前に実施されており,計算手法の実データへの応用が本研究計画の課題である.本年度は第一段階として,当初計画通り,減衰構造を初期モデルのまま固定した上で地震波速度構造の推定を行い,適切なダンピングパラメータを見いだした.使用したデータはIRIS・GEOSCOPE・OHP・SPANETの1秒サンプリングの広帯域波形(周期50-400s;SH成分)である.約20個の地震に対して良質な約2000本の地震波形記録を選別し,データセットとした.地球内部のS波速度構造を水平方向に10次までの球面調和関数,鉛直方向に8個のボックスカー関数で展開し,モデルパラメータとした.モデルパラメータの数は968個である.初期モデルとして構造モデルにanisotropic PREM,震源モデルにHarvardのCMT解を用いた.計算時間短縮のため,水平方向不均質構造を球対称構造からの無限小の摂動として取り扱う近似(1次ボルン近似)を用いた.このような条件のもとで解析したところ,通常のdamped lease squareでは従来と整合的なモデルが得られないこと,適切なダンピングとスムージングを併用することにより従来と整合的なモデルが得られること,より正確なモデル推定には地震波エネルギーが全領域に均質にザンプリングするような重みをデータに課す必要があることが明らかになった.来年度はこの成果を踏まえ,減衰構造・地震波速度構造を同時にかつ詳細に推定することにより,地球のダイナミクスに対して新たな制約を加える予定である.
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