研究概要 |
今年度は,年次計画に従って,口永良部島火山における地磁気全磁力連続観測を開始した。経費の大半はこの観測のたちあげと維持に使用した。観測点の選定にあたっては,火山性地震の震源域である新岳火口直下600mを中心とする半径100mの領域が消磁した場合の磁場変化を想定し,大きな変化が期待できる火口北側の1点および南側の2点に設置した。測定には現有のオーバーハウザー磁力計を使用し,オーブコム衛星通信を利用してデータを研究室へ転送している。まず,磁力計とオーブコム通信端末とのインターフェースをマイコンボードを使って自作し,研究室の方では送られてくるデータを自動処理してWEB表示を行なうシステムを作った。通信料を抑えるため,5分サンプリングの測定データは,マイコン内のメモリーに一時保存され,毎時平均値を作り,前日分のデータを毎朝一回オーブコムへ一括して出力している。磁力計の故障などにより一部観測に欠測が生じたが,衛星通信は100%成功しており,小型・省電力のオーブコム通信を火口近傍の観測に活用する目処がたった。 火山活動に起因する変動を抽出するために,全磁力夜間平均値の2点間の地点差を取ったところ,磁気嵐などの変動はある程度取り除くことができ,±1nT程度の長期的周期変動が存在することがわかった。まだ測定期間が短く原因は特定できていないが,外気温変化による季節変動である可能性がある。火山活動に起因すると思われる変動は今のところ捉えられていない。また,山体の熱磁気的特徴を最もよく保存していると考えられるパン皮状火山弾を異なる場所でいくつが採取し,自然残留磁化およびその温度特性を測定した。これらは,熱消磁シミュレーションにおいて温度場から磁化を計算する際に用いる。実際に,熱伝導のみを考慮した場合の簡単な熱輸送計算などを行ない,次年度に行なう熱消磁シミュレーション開発の準備をすすめている。
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