研究概要 |
親潮域における最終氷期以降の環境変動を明らかにするために北海道南方沖の漸深海帯から採取されたピストンコア中の底生有孔虫群集を研究した.本研究で使用したコアは,東京大学の研究船淡青丸のKT90-9次航海で採取されたST-21コアである. 最終氷期から完新世にかけて4つの底生有孔虫群集が確認されている.最終氷期の底生有孔虫群集は,Epistominella pacificaの産出により特徴づけられる.この種は日本より北方の寒流系中層水域の特徴種といえる.したがって,この種の産出は,北方起源の中層水が最終氷期に強化されたことを反映している可能性がある.完新世前期の群集は,現在の親潮中層水域の群集と類似する.したがって,この時期に現在のような中層環境の成立が始まったものと推定される.現在の親潮域では,溶存酸素極小層が水深500〜1,800m付近に位置している.さらに,この群集は,貧酸素指標種を多く含んでいる.したがって,この期間は過去16,400年間で溶存酸素量が最も低かったと推定される.完新世中期になると,E.batialeのみが80%近くを占める単純な群集へと変化している.この群集の特徴から推定される海底環境は,現在の親潮域の水深2,000m付近の海底環境に近い可能性がある.完新世後期の群集は,現在の釧路沖の中層水域の現世群集と類似する.したがって,完新世後期には再び低酸素を特徴とする親潮中層水環境が存在したと推定される.
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