研究概要 |
流体中の細粒粒子の挙動において,粒子が個々の単体として振る舞うのか否かは堆積物の形成過程において非常に重要である.とくにシルトや粘土など細粒な粒子の場合,さまざまな環境影響によって粒子どうしが凝集してフロックとよばれる凝集体を形成すると,個々の粒子の状態で沈降するときの数倍-数10倍の速度で沈降することが可能となる.これまでの研究では天然系での観察の困難さから実験的な研究が行われてきたが,単一影響のもとでの単調な変化を扱っており,複合影響や天然系の現象を説明するのは難しい. 本研究はフロックの形成プロセスに注目し,波や流れのエネルギーと流体の温度・流体中の懸濁物濃度・塩分の4つを環境要因にみたてて沈降実験を行った.実験に際してはビデオや画像解析を駆使し,流体に与えるエネルギーに対してそれぞれのパラメータ変化に応じたフロックの形成プロセスを詳細に解析した.その結果,1)温度・塩分に比例してフロックが成長し沈降速度が速くなる,2)懸濁濃度に比例してフロックはより大きく成長するが,その沈降速度は懸濁濃度が500ppm付近でピークとなり1000ppm程度になると遅くなる,3)流体に与えるエネルギーを増やしていくと,反転100回相当のエネルギー程度まではフロックが成長し,それ以上のエネルギーを与えると破壊に転じフロック径が小さくなることが分かった.これまでの研究ではフロックの形成は1つの環境要因のもとでは単調変化すると考えられていたのが,2つ以上の環境要因の複合影響のもとでは必ずしもそうはならず,条件によってフロックの成長から破壊に移る過程や沈降速度とフロック径との逆相関現象が確認された. 沈降実験によって形成した堆積物の組織観察からは,流体に与えたエネルギー量にかかわらず垂直断面では塩分に比例して間隙率が上昇することが分かった.このことはフロック形成によって組織中の隙間が増加したことを示している.これは形成したフロックの大きさに関連していると考えられる.また水平断面の観察からはこのような結果は得られなかったので,圧密の影響が考えられるが詳細は未解明である.
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