研究概要 |
本研究は海洋プランクトンの一種である放散虫の化石を環境指標に用いて,南大西洋ベンゲラ海流域と北太平洋親潮域における過去約900万年間の古海洋学的な解析を行い,南北両半球の寒流系の発達史を明らかにすることを目的としている.さらに相互比較によりそれぞれの寒流系の成立過程の特色を明らかにすることを目指している. 平成12年度にはベンゲラ海流域の深海掘削コアODP Leg 175 Site 1082についての放散虫の鑑定と定量計測にもとづいて,過去600万年間分の記録から放散虫生物イベントを認定するとともにそれらの地質年代の推定を行った.その結果は研究発表論文′Late Cenozoic radiolarians from South Atlantic Hole 1082A,Leg 175.′として投稿して受理された.また,9月末に開かれた日本地質学会第107年年会においては,その研究成果を「南大西洋東部の新生代後期放散虫化石-生層序と古環境」と題して発表した.これらの研究を通じて,ベンゲラ海流域においては,約320万年前と290万年前に段階的な寒冷化がおき,その後に現在のような湧昇流を伴うベンゲラ海流が成立したことが判明しつつある. 一方,親潮の成立過程復元のための補足調査として,平成12年9月に北海道の胆振地方と日高地方において新第三紀層の野外調査とサンプリングを実施した.その後サンプル処理を行い,平成13年の1月には放散虫の鑑定をほぼ終え,解析を進めている状態にある.また,新潟県上越〜中越地域においては,700〜300万年前の新第三紀層について日本付近の寒冷化に関連させた研究を進めてきたが,その微化石層序学的な研究成果を論文としてまとめ,現在関連学会誌に投稿中である.ただし,これについては放散虫の保存状態が良好ではなかったため,おもに地質年代学的な議論に終始することとなった.
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