平成13年度は岡山県井原市の浪形層を重点的に研究する予定であったが、昨年度十分な標本を得られなかった兵庫県神戸市の神戸層群多井畑層および香川県豊島の土庄層群豊島層から大量の貝類化石が産することが判明したため、これらの層に重点をおいて野外調査を行うとともに貝類化石標本を採取し、詳細な分類学的検討を行った。 神戸市西部に分布する神戸層群多井畑層の含貝化石層は同層の最下位近くに位置する。本層の貝類化石群は腹足類5属5種(3属3種は新種)、二枚貝類10属11種(5属5種は新種)からなり、属構成は暖流系の内湾性の要素からなる。これらには他の地域の新生代貝類化石群との共通種はまったく含まれない。最近、本層から始新世を示す渦鞭毛藻化石が報告されたことから、本層の貝類化石群は始新世の未知の暖流系貝類化石群として位置づけられるべきものである。 香川県豊島の土庄層群豊島層産貝類化石群は腹足類15属16種(3属3種は新種)、二枚貝類14属15種(2属2種は新種)、掘足類1属1種からなる。本層の年代は最近の研究でも中新世とされていたが、後期始新世〜最前期漸新世を示す貝類を多数含むことが明らかとなった。また、本層の貝類化石群にはインド-太平洋系・北太平洋系双方の要素が含まれることも明らかとなった。 以上、昨年度および今年度の研究成果により、瀬戸内海東部沿岸地域に海成古第三系が広く分布することが明らかとなった。これらの結果により、従来の西南日本の古地理・地史および北西太平洋地域の古第三紀貝類化石群の古生物地理について、大きな改訂が必要であることが示された。 尚、上記の研究成果についてはすでに学会において講演を行い、また、昨年度行った岡山県牛窓町の前島層の貝類化石群に関する研究成果については、すでに日本古生物学会Paleontological Research誌に受理となり、第6巻第2号(2002年6月発行)に公表の予定である。
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