研究概要 |
本年度は、まず、研究計画1である密度汎関数法(DFT)の自己相互作用誤差の解消の第一歩として、パラメータを含まない解析的交換汎関数の開発を試みた。密度行列展開法に基づき、パラメータや付加的な項を一切導入せず、物理的な近似のみを使って、汎関数を導出した。その結果、自己相互作用誤差を含まないための必要条件を満足するはじめての汎関数である、Parameter-free交換汎関数を開発することができた。交換汎関数に対する重要かつ厳しい物理的基本条件にこの汎関数を適用した結果、その運動エネルギー部分に厳密汎関数を使うと、長距離相互作用条件以外の全ての条件を満たすことがわかった。この汎関数を、本研究者らが開発したOne-parameter progressive相関汎関数と組み合わせて、運動、交換、相関汎関数の間に存在する横断的関係を明らかにすることもできた。本研究者らは、残された交換汎関数の長距離相互作用の問題を解消するために、従来の一般化勾配型近似交換汎関数へ適用可能な長距離相互作用補正法を現在開発している。この方法は、誤差関数を用いて二電子間相互作用を短、長距離部分に分割し、交換エネルギーの短距離部分に交換汎関数、長距離部分にHartree-Fock交換積分を用いる方法である。ちなみに、従来の自己相互作用補正法により補正されるのは、主に長距離交換相互作用部分であると報告されている。 また、研究計画2のDFT高速ソフトウェアの開発を行い、完成させた。このソフトウェアを、第2,3列遷移金属二量体の平衡構造及び解離エネルギーの計算に用いた。その結果、DFTが遷移金属二量体の解離エネルギーを過大評価するのは、その交換汎関数が、分布の著しく異なる最外殻s、d軌道間の長距離交換相互作用を十分取り込めていないためであることがわかった。本研究者らは、このソフトウェアを、上記の長距離相互作用補正法の開発において中心的に用いている。
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