極低温での溶液内化学反応および原子分子の分光実験が現在精力的に行われている。特に溶媒として超流動ヘリウムを用いた実験が行われでおり、量子効果に由来する様々な"奇妙な"化学的なプロセスが観測されている。本研究の目的はこのような超流動ヘリウム内での原子分子の溶媒和および化学反応の分子論的な描像を確立することにある。 本年度は、まず方法論の開発から行った。特に液体ヘリウムの超流動性には粒子のスピンに由来する統計性(この場合はボーズ統計)を適切に考慮することが極めて重要である。そこで本研究では、従来の分子動力学法をポーズおよびフェルミ多体系を取り扱えるように拡張した。ここでは量子統計の効果を"置換の擬ポテンシャル"と呼ばれるものを導入することにより分子動力学法を定式化した。モデル計算により、本研究で提案した方法の有効性を示した。 さらに、分子間相互作用をモデルポテンシャルに依らず、第一原理から求め量子系のシミュレーションを行う方法を開発した。化学反応に典型的な結合の組替えがある場合は、モデルポテンシャルでこのプロセスを表現することは一般に難しく、第一原理から求めることが望ましい。本研究では、分子間相互作用は、非経験的分子軌道法により直接系の電子状態を解くことにより求め、粒子の量了ゆらぎは経路積分法により表現することより分子動力学法を構成した。水分子に対してモデル計算を行い原子核の量子効果を第一原理から見積もった。
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