研究概要 |
本年度は液体水素の代表的な集団的ダイナミクス現象である、集団励起モードに対する圧力効果について、径路積分セントロイド分子動力学(CMD)シミュレーションによって、実験とは別の角度から調べた。液体パラ水素の集団励起モードの空間分散・減衰挙動などを、0気圧の密度の約 20%増しの高密度(高圧)下と超高圧力条件の両方で調べた。液体パラ水素の時空相関(集団運動)は、実験的には70年代に行われた中性子非弾性散乱実験(Carneiroら)の不満足なデータがあるに過ぎなかったが、1999年に行われた大規模な中性子実験(欧州共同研究)によって、研究代表者がその前年にCMD計算によって得た動的構造因子と極めてよく一致した集団励起モードが観測された。音響様フォノンの分散の高密度(高圧)での挙動を本研究で明らかにした。 15Kの液体パラ水素に対してAndersen-Nose-Hoover chain型の定温・定圧の量子統計力学的CMDシミュレーションを行う。設定圧力は、欧州共同中性子実験グループが2000年より開始する高圧下での非弾性散乱実験の設定圧力、すなわち5bar,25bar,40barを設定した。計算されたセントロイドのトラジェクトリーをもとに、速度自己相関関数の量子パワースペクトルと時空相関関数(動的構造因子)を計算し、系の集団励起モードの分散や減衰挙動を調べた。その結果、低波数領域での線型関係から高圧状態での断熱音速を評価すると、0barに比べ40barでは音速が大きく、1.18倍となり、実験結果(1.14倍)に近い結果が得られた。さらにスペクトルの特徴がおおむね似通っていることもわかり、この程度の圧力では集団励起に顕著な変化は出てこないこともわかった。さらに、高圧液体パラ水素の自己拡散係数を計算し、実験結果とよい一致を得た。
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