研究概要 |
ナノスケール空間に拘束された水の相挙動を準2次元系と準1次元系において調べた. 第一に準2次元系においては,スリット状の細孔に拘束された水を冷却すると準2次元のアモルファス氷への相転移が起こることを分子動力学シミュレーションに基づき明らかにした.この転移は水を幅1nm未満の疎水性スリット状細孔に閉じ込めたとき,大気圧下のバルク水の凝固点より高い温度で起こる「1次相転移」である.すなわち,密度,内部エネルギー,エントロピーなどが転移点で不連続に変化する.閉じ込められた液体状態にある水は不完全でランダムな水素結合網を形成しているが,転移後のアモルファス相はさまざまな水素結合多角形からなる「完全な結合網」をもつ.完全な水素結合ネットーワークをもつという点で結晶の氷と似ているが,長距離秩序はもたない.このように液体から固体状のアモルファス相への1次相転移が水において確認された.この研究は,英科学誌Natureに掲載された. 第二に準1次元系においては,多角形氷ナノチューブの構造を解析した.一般にN角形のリングが積み重なった準1次元氷「氷ナノチューブ」は完全な水素結合ネットワークを形成できることに注目し,4から8角形までのそれぞれの構造で,エネルギー極小構造を見出した.各リングに沿った水の分子内OH bondの向きは,時計回りと反時計回りの二種類のいずれかをとることができる.N角柱の辺に沿ったOH bondの向きは,全てが同じ向き,上または下,に向かなければならないのみならず,それぞれの辺の向きが互い違いにならなければならないことが見出された.各系で最安定の配置を特定,比較したことから,無限に長いN角形氷ナノチューブでは,5角形または6角形が最も安定であることが解った.さらに,水の分子数が少ない場合は4角形のチューブ状クラスターが安定で,ある分子数以上になると5角形または6角形がエネルギー的により安定になることを示した.この研究はJ.Chem.Phys.に発表された.
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