アンモニウム・アンモニアクラスターイオンと水和ニトロシルクラスターイオンについて、5配位までの各配位数における構造とエネルギー的な序列をab initio MO計算を用いて計算した。前者は第一配位圏に4つのアンモニア分子が水素結合することで安定化し、後者の反応前はニトロシルイオンの窒素側に水分子が二配位する構造が最も安定で、反応後には生成するヒドロニウムイオン三水和物を形成する構造が最安定構造として得られた。いずれの場合も大きな電荷を帯びたイオンに対する配位構造が安定な異性体構造を予測する上で最も重要であることがわかった。 また、アンモニア・アンモニウムクラスターイオンでは一配位物を除いて安定な異性体間でプロトン移動にかかわるゼロ点補正したポテンシャル面が単一ミニマムを形成することから、プロトンの量子効果は観測される構造に影響しないことが明らかとなった。 一方、水和ニトロシルクラスターイオンについてプロトン移動反応を伴い亜硝酸とヒドロニウムイオンを生成する反応メカニズムを解析し、4配位・5配位における反応経路を得ることに初めて成功した。この系については反応によって生成する亜硝酸がオゾン層破壊の原因の1つとして考えられていることから環境化学的な興味からも近年さかんに研究がなされている。しかしながら、これまではプロトン移動の遷移状態が得られておらず熱化学的に反応が進行することは困難ではないかと考えられてきた。ここでの解析により遷移状態のエネルギーは5kcal/mol程度と小さく、150K〜300Kの温度効果によって容易に反応が進行しうることを明らかにした。反応生成物と最安定構造との相対エネルギー差は大変小さく生成物が熱平衡状態においてかなりの割合で存在するという結果も実験事実と一致する。 また、有限温度の条件でプロトンの量子効果を取り入れることができる全自由度を考慮した経路積分モンテカルロシミュレーションのプログラムをやや不安定ながらもPCクラスターで並列処理できるよう移植した。プログラムにマルチカノニカルアルゴリズムを取り入れるまでには至らなかったが、ほぼ当初の予定は達成した。
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