内殻励起状態の振動準位を分離できるような励起光のバンド幅が狭い条件において解離イオン種選別した角度分解イオン収量スペクトルの測定は、多様な分子を効率よく測定する手法は確立されているとはいえない。本研究補助により、この目的を満足する質量選別角度分解イオン収量(MS-ARPIS)測定装置のプロトタイプを製作することができた。 本装置は、内殻励起後に放出される光解離イオンを質量選別し、特定の光イオンについて角度分解光イオン収量スペクトルを測定することを目的とした装置である。この装置において重要な点は、±10°程度の開き角に放出される解離イオンを効率よく質量分析・検出部に導くイオン光学系を作ることにある。その目的のため、D.W.O.Heddleが考案したafocal静電レンズを採用した。イオン光学計算コードを用いたシミュレーションに基づき、実装する静電レンズを決定し、製作した。静電レンズの性能評価のため、光電子を用いた実験を行い、目的とする性能が得られていることがわかった。この静電レンズと同じ形のレンズを、四重極質量フィルターに取り付け、MS-ARPIS測定装置のプロトタイプを製作した。 テスト実験において、光電子を用いているのは、適切なイオン源が用意できなかったためである。レンズ系のテストを兼ねた実験では、NO分子の窒素K殻光イオン化に関して、スピン多重度を分離した光電離部分断面積の測定を行うことができた。この結果から、内殻光電離における交換相互作用の効果について、多くの知見が得られた。 今後、製作した装置を用い、ヘテロな直線3原子分子を対象とした測定を行う予定である。来年度前期におけるKEK-PFでのスタッフ優先課題を申請し、認められており、放射光を用いた試験的な測定を行う予定である。
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