研究課題の理論構築・プログラム化を行う上での問題点について検討を行うとともに、新法と同じ理論背景を有する3D-RISM-SCF法の開発・応用計算を行った。 (1)積分方程式(OZ法)と非経験的分子軌道法とを結合した新しい理論の試験的プログラムを作成し、最小基底関数系のAr液体に対する計算を行った。得られた液体構造は、これまで知られている古典液体とよく合致していたが、同法で得られた動径分布関数は量子的効果を反映して短いサイト間距離領域で僅かに立ち上がりが異なっていることを見いだした。より一般的な系への応用のためには角度依存性を反映する分子積分が必要であり、現在検討を行っている。 (2)Kovalenko・平田によって近年提案された新しい積分方程式理論(3D-RISM法)は、従来のRISM法を三次元空間へ拡張した方法であり、溶媒和構造を動径方向へ射影して表現する必要がなく、溶媒和構造に関するより詳細な知見を直接的に得ることができる。そこで同法と非経験的分子軌道法と結びつけた新しい方法である3D-RISM-SCF法の開発を行った。新しい方法では溶質分子周辺の溶媒和構造が三次元情報として得られるので、これまでRISM-SCF法の問題点の一つとされていた、電子状態(分布)の点電荷への変換を不要とした。水中の一酸化炭素について調べたところ、溶質分子周辺の水分子の分布は、従来のRISM-SCF法で得られた結果と概ね良い一致を示しているが、一方で、RISM-SCF法では見いだされなかった水素結合構造の存在が示唆された。 同法の実際の計算アルゴリズムは、フーリエ展開した分子積分を直接求めることで計算精度・効率の向上を計っている。同分子積分を計算するためのサブルーチンは、本研究課題で掲げた新法を更に三次元空間へ拡張する上で共有できるものである。
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