研究概要 |
実験的に報告された、材料化学的観点から重要な2つの触媒反応について、遷移金属錯体がどのように反応を制御しているのか、ab initio分子軌道(MO)法およびONIOM法を用いて理論的に検討を行った。 キラルな(R,S)-BINAPHOS配位子を持つPd(II)錯体触媒によるスチレン/CO交互共重合反応は、ほぼ完全なレジオおよびエナンチオ選択性を示すことが実験的に報告された。この交互共重合反応は、COとスチレンンの挿入反応がPd錯体上で交互に繰り返されて進行し、その高い選択性は、スチレン挿入過程の遷移状態でのスチレンのPh基の配置が、BINAPHOS配位子の立体効果により決定されるため、発現することが分かった。スチレン1分子目の挿入反応では、1,2-insertionでS体を生成する遷移状態が最も安定であり、2分子、3分子、4分子目の挿入になるに従い、1,2-insertionでR体を生成する遷移状態が最も安定になり、その安定性は、BINAPHOS配位子の立体効果により制御されていることが明らかとなった。これらの結果は、実験結果をよく再現した。 また、実験的に報告されているスタノール合成触媒反応について、錯体触媒としてM(PR_3)_2(M=Ni,Pd,Pt;R=Me,i-Pr,t-Bu)を用い、反応の中間体および遷移状態を求めることで反応サイクルを解析し、中心金属および配位子がポテンシャルエネルギー面にどのように影響を与えるのかを検討した。ホスフィン置換基の立体的および電子的な両効果が効果的に作用するi-Pr基が、ポテンシャルエネルギー面を安定化し、反応の活性化エネルギーを最も低下させることが分かった。反応活性はi-Pr>Me>t-Buの序列で向上すると予測され、置換基によって律速過程が異なることが示唆された。また、反応活性はNi>Pd>Ptの順に大きくなることが分かった。これらの結果は、錯体の中心金属および配位子による触媒反応設計に一つの指針を与えるものである。
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