研究概要 |
リン及び硫黄を構成要素とするホスファ及びチオキノイド化合物の合成研究を行った。これらの化合物は,将来的には機能性分子の構成要素として期待される一方で,合成,単離例が極めて少なくその構造,性質は殆ど知られていなかった。 立体保護された2級ホスフィン,(4-ブロモフェニル)(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)ホスフィン及び(5-ブロモ-2-チェニル)(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)ホスフィンを鍵合成中間体とすることにより,ホスファキノメタン,ホスファチエノキノメタン,ジホスファチエノキノンを初めて合成,単離し,これらの化合物がキノイド構造を有することをNMR,IR,及びUV-Visスペクトル,X線結晶構造解析により明らかにした。更に,サイクリックボルタンメトリーによりこれらのホスファキノイド化合物が2段階の還元系であることを明らかにし,対応するホスファセミキノン型アニオンラジカルをナトリウム還元により発生させてEPRにより直接観測した。ホスファキノメタンとホスファチエノキノメタンが比較的高い還元電位を有し,第一及び第二還元電位の差が小さく,対応するアニオンラジカルでは不対電子がキノイド骨格全体に非局在化しているのに対し,ジホスファチエノキノン及びホスファキノンでは,還元電位が低く還元されやすく,第一及び第二還元電位の差は大きく,アニオンラジカルでは不対電子がリン原子上に局在化することが分かった。 2,6-ビス(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)チオベンゾキノンを,対応するヒドロキシチオフェノールから酸化マンガン(II)による酸化でジスルフィドとし,更にDDQにより酸化することで発生させたが,反応性が高く単離には至らなかった。そこで,各種捕捉剤との反応を検討したところ,2,3-ジメチルブタジエンとの反応による捕捉生成物を得ることができた。
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