研究概要 |
炭素リガンドのみを有する光学活性テルランの合成にあたり、配位子として1,1′-ビナフチル基を用いることにした。ベーターナフトールにヒドラジン一水和物をオートクレーブ中180度で約78時間作用させ、塩酸で処理したところ、ジアンモニウム誘導体が得られた。これをジアゾ化しヨウ化カリウムにてヨウ素化したところジヨード体を得ることができた。次に得られたジヨード体をノルマルブチルリチウムに作用させ、ジリチオ化させ、半当量の4塩化テルルと反応させたところ、生成物として、ビナフチルテルリド、ビナフチルに加え、ビス(ビナフチル)テルランを40%の収率で単離する事に成功した。得られたテルランは淡黄色で120。C付近に分解点を持つ空気中で安定な化合物であった。このテルランのキラル中心を考えてみると、2種類存在することが判る。一つはビナフチル基の軸不斉に由来するもの、もう一つは三方両錐形構造に2つの2座配位子が結合した場合のテルル原子上に現れる不斉である。しかしながら、類似化合物であるビスビフェニリレンテルランは室温ではこのように互いにキラルである三方両錐形構造間にて非常に早いPseudorotationが進行することが判っているため、生成したテルランについても同じ現象が生じていることが予想される。そこで次にこのテルランの溶液中での挙動をNMR測定にて観測してみた。 図5に示すように、1H NMRでは4組のトリプレット、8組のダブレットが、^<13>C NMRでは20本のシグナルが現れた。これはいずれもビナフチル基に由来するピークで、対称なビナフチル基の場合の2倍のシグナルが観測されたことから、やはりテルランがジアスレテオマーとして存在していると考えられる。すなわち、2つのビナフチル基由来の光学活性中心のみが立体に利いており、やはり速いPseudorotationのためテルル原子上の不斉は現れていないものと予想される。また得られたテルランについて125Te NMRの測定を行ったところ、482ppmに一本のピークが現れた。これは対応するビスビフェニリレンテルランの化学シフトと非常に近く、テトラアリールテルランの化学シフト領域に位置することが判った。またテルルのシグナルが1本であるのは、C2軸を有するテルランのテルル原子がその軸上に存在するため、配位子に由来する不斉が利いてこないからであると予測される。
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