研究概要 |
前年度までに、2つの芳香環が部分的に重なったanti体のフェナントレノファンのうち、フェナントレンを構成する六員環の2つあるいは1つで重なったanti-[2.3](2,7)-及び[2.3](3,9)フェナントレノファン(1及び2)がエキシマー蛍光を与えることを示したが、本年度はフェナントレンのエキシマー形成に必要な重なりを明らかにする目的で、さらに重なりの小さいanti-[2.3](3,10)フェナントレノファン(3)を分子設計し、実際に合成し、その蛍光挙動を明らかにした。対応する前駆体ビニル化合物を合成し、その分子内[2+2]光環化付加反応により目的の3が得られ、さらにHPLCによりそのanti体を単離した。anti-3の蛍光スペクトルにおいては、振動構造を有するモノマー蛍光が観測された。分子力場計算によると、anti-3においてはフェナントレンを構成する六員環の1つの半分程度でのみ重なっており、フェナントレンのエキシマー形成にはanti-2のように六員環1つ程度の重なりが少なくとも必要であることが明らかとなった。このように、本年度の当初の研究目的がまず達成された。 また、これまで合成してきたフェナントレノファンに架橋鎖として含まれているシクロブタン環は、芳香環の配座の固定には極めて有効であったが、光により開裂しやすく光安定性の点で問題があった。そこで本年度は、より安定なものを目指して、シクロブタン環を含まないフェナントレノファンの合成にも着手した。その結果、シクロブタン環の代わりに-C-O-C-という架橋鎖を含むフェナントレノファンの合成に成功した。現在、その光物理的性質について詳細に検討している。
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