研究概要 |
フォトクロミックなサリチリデンアニリン誘導体であるN-3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン-3-ニトロアニリンの淡黄色結晶にパルスレーザー光(λ=730nm)を照射したところ二光子励起を経て暗赤色に変化した.この結晶にXeランプを用いて可視光(λ>530nm)を照射すると元の淡黄色に戻った.この色変化に伴う分子構造の変化をX線結晶解析で決定した.その結果から,結晶中におけるサリチリデンアニリン類のフォトクロミズムはエノール体とトランス・ケト体との互変異性に由来することが明らかになった.他のサリチリデンアニリン誘導体の合成および単結晶の作成を行った.これらの結晶についてもパルスレーザー光を照射することで,二光子励起を経て着色体を生成することができた.赤外吸収スペクトルによって,着色体の寿命を測定した.その結果,同一の化合物でも結晶中に独立な2分子が存在する場合,その寿命がそれぞれ異なること及びそれが分子間の水素結合の強さに依存することがわかった.また,フォトクロミックなシドノン誘導体を合成し,単結晶を作成した.この誘導体においても低温でパルスレーザー光を照射することによって,二光子励起を経て着色体を生成できることがわかった.これらの結果からフォトクロミック分子の結晶に対してパルスレーザー光を照射することで,二光子励起を経て着色体を発生させる方法が一般に適用可能であることがわかった.また,シドノン誘導体の単結晶における着色体の吸光度には非常に大きな異方性があることがわかった.この着色体の構造をX線結晶解析で決定する前段階として,効率よく着色体を単結晶中に発生させる条件(光照射温度,波長,照射時間)を検討した.
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