研究概要 |
研究代表者等によって見い出されたパラジウム-ホスフィン錯体触媒によるアレン合成反応に、様々な不斉ホスフィン配位子を適用し、軸不斉光学活性アレンの合成を試みた。そのなかでも、不斉配位子としBINAPを用いた場合にのみ、十分な触媒活性と立体選択性が確認された。また、この不斉アレン合成反応においては、パラジウム前駆体の選択が非常に重要であることが見いだされた。すなわち、[PdCl(π-allyl)]_2+BINAP,Pd(binap)_2などの触媒を用いた場合には、非常に低いエナンチオ選択性しか示さないのに対し、Pd(dba)_2+BINAPを触媒として用いれば、反応のエナンチオ選択性は格段に改善される。後者においては、パラジウム前駆体より放出されたジベンザルアセトンが系中に存在するが、前者を用いた反応ではこのものは系中に存在しない。実際、前者の触媒を用いた場合にも、反応系中に触媒量のジベンザルアセトンを添加することによってエナンチオ選択性の改善が見られた。この、ジベンザルアセトンの特異な効果について、NMR実験を行ったところ、ジベンザルアセトンは、不斉アレン合成反応の鍵中間体として存在するパイアリルパラジウム種の2つのジアステレオマー間の交換速度を10〜20倍加速することが確認された。エナンチオ選択性発現の機構を考慮すると、このジベンザルアセトンによるパラジウム中間体の異性化の加速が、不斉アレン合成の高い立体選択性において重要であることが見い出された。 反応条件を最適化することにより、最高89%eeの光学活性アレンが得られたが、この値は、不斉遷移金属錯体触媒による軸不斉アレンの不斉合成としては、現在までに知られているなかで最高の値である。
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