研究概要 |
1.2個のビシクロ[2.2.2]オクテン(以下BCOと略記)ユニットの縮環したチオフェンを合成し、スペクトル性質を明らかにするとともに、容易に一電子酸化を受けることを電気化学的手法により見いだした。また、化学的な酸化反応によりこれをラジカルカチオンに変換し、ESR測定によりスピン分布を明らかにした。さらに、ラジカルカチオン塩を黄色結晶として単離し、X線結晶構造解析により構造決定することに初めて成功した。 2.2個のBCOユニットの縮環した1,4-ジチインを合成し、これが極めて低い電位で二段階の可逆的な一電子酸化を受けることを見いだした。また、化学的な一電子酸化によりラジカルカチオンに変換し、ESRスペクトル測定を行なった。硫黄によるカップリング定数から、BCOによる縮環が、スピンと陽電荷の非局在化に関してベンゼン環の縮環よりも有効であることを明らかにした。さらに赤褐色のラジカルカチオン塩としてこれを単離し、X線結晶構造解析することに成功した。これによりπ共役系は平面性を保持していることが明らかとなった。 3.2個のBCOユニットの縮環した1,4-ジチインについて、強い酸化剤である五フッ化アンチモンを用いて二電子酸化することにより二価カチオンへと導き、これをH-1およびC-13NMRにより観測した。特にビシクロ骨格の橋頭位プロトンのケミカルシフトの値から、この二価カチオンが6π電子系としての芳香族性を有していることを明らかにし、さらに理論計算によってこれを確認した。
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