これまで当研究室で精力的に行われてきた光不斉増感反応では、ポリカルボン酸エステル、及び一部アミドの側鎖部位に不斉源を導入したものを用いてきた。しかしながら、前者を用いた反応では増感部位が不斉点と離れているため、一般的には光学収率の向上が難しく、また、後者は合成や変形が難しく高価な上、光反応に対する安定性にも問題がある。このような背景から申請者は、(a)合成が比較的容易で、(b)クロモファーと不斉点がなるべく接近しており、(c)化学修飾や誘導体への変更が容易である、芳香族ポリエーテル系の増感剤を構築し、これらの化合物のうちもっとも基本的であると考えられるキラルな2級アルキル基を導入した化合物を合成した。また同時に、不斉源として一般に入手しやすいメンチル基やボルニル基、ならびに糖誘導体を用いたものの合成にも着手している。これらの(キラルでない)誘導体での研究で、ラジカルカチオンやCT性錯体、および中性分子の構造の比較がなされており、例えばジメトキシベンゼンでは、中性状態で二つのメチル基がベンゼン平面の上下に飛び出ているのに対し、ラジカルカチオンやCT錯体中のエーテルでは、その構造は基底状態と大きく異なることが知られているが、光化学的諸性質(蛍光やその量子収率、また励起状態での構造)についてはほとんど知られていない。今回設計した芳香族キラルエーテルも電荷移動系の光増感剤として作用させることで、大きなコンフォメーション変化とそれに伴う高い立体選択性が期待されるが、その下準備として種々のアキラルなキラルエーテル(メチル置換基を有するハイドロキノンジメチルエーテル)の光化学的性質をUV、蛍光スペクトルを用いて検討した。この結果については今回初めて明らかにされたので国際紙に報告した。今後はこれらの得られた増感剤を用い、キラルなスルホキシドの光異性化反応等の増感反応に展開していく予定である。
|