研究概要 |
不斉な無機結晶を用いてキラルな有機化合物を不斉合成すべく研究を行い、右水晶存在下ではS体のピリミジルアルカノールを,左水晶存在下ではR体のピリミジルアルカノールを高エナンチオ選択的(最高97%ee)に得ることが出来た。その不斉誘起の機構を解明するべく,水晶の粒径とエナンチオ選択性の大きさの相関関係を調べた。まず、平均粒径が2.9-7.6nmになるように粉砕した水晶粉末を用いて実験を行い、得られるピリミジルアルカノールの鏡像体過剰率を調べた。次に粒径の異なる右水晶と左水晶を混合した試料を用い,混合比を変えて反応を行った。この結果,得られるピリミジルアルカノールの鏡像体過剰率はピリミジルアルカノールの高い不斉増幅能に依存し、水晶の粒径いかんにかかわらず常に高いことが示された。さらに、反応の極く初期の段階で反応を停止し,得られるピリミジルアルカノールの鏡像体過剰率が極めて低いことを確認した。この結果は水晶表面におけるエナンチオ面選択性(あるいはエナンチオマー選択的な吸着現象)が極めて低いにもかかわらず、高エナンチオ選択的な有機化合物を得ることが可能であることを意味している。水晶のようにヘリシティーに基づく大きな不斉構造、あるいは共有結合性による強い吸着能を持たず,水晶よりもエナンチオ選択性が期待出来ないと考えられた他の無機結晶を不斉源として用いることが可能であることが示された結果であるといえる。
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