本研究では、ダイマーの励起エネルギー移動を実験、理論両面から明らかとすることを目的とする。特に、一電子酸化型ダイマーの励起エネルギー移動は、一電子移動が励起エネルギー移動と同期するため、既知のForster、Dexter機構とは原理的に異なる新規なエネルギー移動機構になると期待できる。 今年度は、自己集合型亜鉛フタロシアニンダイマーを、時間分解ESR(TRESR)により研究した。20KのTRESRスペクトルは、モノマーとダイマーでほとんど変化しなかった。これより、20Kにおける励起三重項エネルギーは、ESRのタイムスケールでどちらか片方のユニットに局在していること、電荷移動相互作用の寄与は十分小さいことが明らかとなった。一方、ダイマーのTRESRスペクトルは、顕著な温度変化を示し、この温度依存性は、ダイマーを構成するフタロシアニンユニット間における励起三重項エネルギー移動に帰属された。これは、ポルフィリン類縁体において初めて観測された三重項励起子状態である。励起エネルギー移動を考慮したシミュレーションプログラムを作成し、励起エネルギー移動速度を見積もることに成功した。これをアレーニウスプロットし、活性化エネルギーを2.7×10^2cm^<-1>と見積もることができた。通常、同一ユニットで構成されるオリゴマー内のユニット間エネルギー移動を評価することは困難だが、TRESRが有効な手段となることを例証できた。
|