1.有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brの巨大単結晶育成では、これまで厚みのある試料しか得られず、薄くて大きな試料の作成は困難であった。今回、電解合成に用いるエタノール溶媒の純度を下げることで二次元面間方向の結晶成長を抑制し、本研究の磁化測定に都合の良い、厚みの薄い平板状の良質単結晶が得られることがわかった。溶媒純度を下げすぎると質が悪化し微結晶しか得られなくなるといった悪影響が見られるため、さらに継続的な合成条件探索が必要である。 2.κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の局所磁化測定のため高精度の測定環境構築を行うことで、磁束格子融解(一次相転移線)が不可逆磁場の直上高磁場側で起こることがわかったが、100G以下の低磁場領域においては現時点でも観測が困難で、課題として残っている。 3.Cu[N(CN)_2]Br塩の磁束混合状態に関して、磁化測定を通じて温度-磁場相図の冷却速度依存性を研究した。一次相転移線の冷却速度依存性が主な目的であったが、これに先だって500 Oe付近に現れる磁化の第二ピークに焦点を絞って実験を行ったところ、磁束のピン止め効果の起源を考察する上で重要な結果が得られた。すなわち、急冷するほど第二ピークは低磁場側にシフトするとともにピークの大きさが小さくなっており、急冷により生じたdisorderはむしろをピン止めする機構そのものを妨げる方向に働いている。従ってdisorderは直接、ピン止めの中心となっておらず、アモルファス超伝導体的に実効的なピン止め力を弱めているものと考えられる。また、温度-磁場相図の冷却速度依存性からは磁化ヒステリシス幅の極小点(200 Oe)が温度、磁場、および冷却速度の関数としていずれもほぼ一定値であり、これが磁束の三次元・二次元クロスオーバー近傍の磁場に相当すると考えられる。
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