本研究では有機固体表面に励起光を照射した際に誘起されるナノメートルオーダーの表面形状変化と、個々の分子の形態変化との関係を明らかにするため、近接場顕微鏡を利用して局所的に励起光を照射し、蛍光特性や表面形状を100nmの空間分解能で調べ、解析した。 ポリチオフェン誘導体薄膜に励起光を照射して表面形状変化を局所的に誘起し、これが個々の高分子鎖の形態変化に起因することを蛍光スペクトル解析により明らかにした。励起光照射に伴い、幅200mmの領域において試料表面が数nm程度隆起し、蛍光スペクトルを解析した結果、光熱変換に基づく温度上昇により高分子鎖のコンホメーションが変化し、試料の表面形状変化に至ったことが分かった。また個々の高分子鎖のコンホメーション変化が先に観測され、その後表面形状変化に至ることが明らかになり、コンホメーション変化による体積変化が、分子の周りの自由体積を上回る必要があるためであると考察した。このように高分子薄膜において、個々の高分子鎖のコンホメーション変化と、試料の表面形状変化が直接的に結びついていることを初めて明らかにした。 さらに局所光反応の誘起には不可欠な、高強度の紫外パルス光が導入できる中空型近接場プローブを用いた近接場顕微鏡を開発した。本システムは150mJ/cm^2(尖頭値880GW/cm^2)の高強度フェムト秒パルスを直径250nmの微小領域に照射でき、空間分解能が300nmのトポグラフィー像、250nmの光学像(蛍光像)を測定できる性能を有する。本システムを用いて厚さ400nmの銀蒸着膜にフェムト秒紫外パルス光を照射し、レーザーアブレーションにより直径350nmの穴をあけることに成功した。
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